「おはようございます。」

「宗次郎くん!もう起きて大丈夫なの?」

早朝、洗濯物を干していたが笑顔で振り返る。

「はい、もう大丈夫です。」

ここ数日の献身的な看病のお陰で、宗次郎はすっかり元気になっていた。

ひどいと思われていた料理も日が経つにつれ、まともになった。

どうやらただ料理が久しぶりだっただけのようだ。自身も

『いつもは適当に切ったり煮たりしてるだけだから(笑)』

と言っていた。

かつて彼女には夫も息子もいたという。

夫は西南戦争にかりだされ、遠く離れた見知らぬ地で死んだと後に知らされた。

そして残ったたった一人の息子も数年前事故に遭い、

発見された時にはもう誰だかわからぬ姿になっており

衣類や持ち物で息子と分かるほどだった。

そうして一人になった彼女はこの山奥でひっそりと暮らしている。

息子が生きていれば宗次郎と同い年らしい。

『―だから宗次郎くんが息子みたいで可愛くて。』

寝込んでいる時、がぽつりぽつりと過去のことをそう口にしたのを覚えている。




挨拶を済ますと宗次郎はすっとの脇にあった洗濯物を物干し竿に掛けた。

無意識のうちの行動だった。

家事をよくさせられたあの頃の習慣が体に染み付いているのかもしれない。

笑顔でテキパキ干していく宗次郎をが驚いたように見ている。

おおかた干し終わると、彼女と目が合った。

「わぁ、ありがとう宗次郎くん!」

こんな風にお礼を言われたのなんて初めて、かもしれない。

なんだか、とてもくすぐったい。

「病み上がりなのに洗濯物なんか干させちゃってごめんね。」

「僕、こういうの得意なんです。」

あの家でやらされていたから。

でも、基本的に家事全般は嫌いではないし、

何かが片付いて綺麗になると嬉しい。

「それに、この洗濯物のほとんどは僕と志々雄さんの分だから・・・。」

「気つかっちゃって。優しいね、宗次郎くんは。」

ぽんぽんとが優しく宗次郎の頭を撫でた。

ヤサシイ?

一瞬の口から零れた言葉が分からなかった。

「・・・僕が、優しい・・・?」

やっと言葉の持つ意味が理解できたものの、まだ頭は混乱していた。

茫然と繰り返す宗次郎に、がやわらかく微笑んで言った。

「うん。いい子だ。よしよし。」

それから、宗次郎の小さな体をぎゅうっと抱きしめた。

いい子とか、そんなことを言われたのも初めてで。

ましてや誰かに

抱き締められた記憶すら。
















































僕は生まれちゃいけない人間なんだ。

あの人たちが言ってた言葉はよく分からなかったけど、

僕のお母さんは僕を生んじゃいけなかったってことは分かった。

『ザイサン』とか僕には関係ないし、興味ないけど

それでもやっぱり僕は邪魔な存在なんだって。

だからみんなひどいこと言うし、

殴ったり蹴ったりするんだ。

僕が悪いんだ。

『嫌われ者』

そう、嫌われ者だから。

どう頑張っても、変わることなんて無い。

一生嫌われ続けるんだ。

そう、思ってた。
































だって、

































みんな


































そう言ったんだ









































抱き締めるの背中を見つめていた宗次郎の瞳から

涙が、零れた。







































でも
























優しく、力強く抱き締めるその腕が
























所詮弱く
























脆くて
























儚いものだなんて
























そのときの僕は思いもしなかったんだ