「ただいま〜♪」


外は雨だというのに任務から帰ってきたは珍しく上機嫌だ。


「お帰りなさい。・・・何ですか、それ?」


僕はが手に抱えている黒いモノに気が付いた。





「これ?宗。」





「・・・へっ?」

































                  



















・・・「宗」と呼ばれたそれは、が今日道で捨てられていたのを拾ったらしい。


何でも目が合った瞬間に運命だと思ったとかなんとか。要は一目惚れだそうだ。


名前は帰り道中で決めたと得意気に話していた。


の腕の中で光る金色の大きな瞳がこちらを見ている。


雨に濡れてぐしゃぐしゃになっていた毛並みも、


手ぬぐいで拭き取られると驚くほど綺麗になった。


これならさほどの猫好きでなくても可愛いと思ってしまう。





「・・・で、事情は分かったんですけど、なんで『宗』にしたんです?」


そう聞くとは少し赤くなり、もごもごと口ごもった。


「何でって・・・。それは、そのぉ・・・まぁ、別にいいじゃん////」


何となくだから!たいした理由はないからね! と


びしっと僕を指差しながら念押しすると、


怒ったようにすたすたと足早に宗を抱きかかえて立ち去ってしまった。


何か怒らせるようなこと言ったかなぁ・・・?と思いつつその背中を追う。


の性格上、志々雄さんや他の十本刀に許可・・・というよりお披露目に行くのだろう。









































「志々雄さーん!!この子飼っていい?」


勢いよく扉を開け、抱えていた子猫・・・宗を志々雄さんに見せる。


じろじろと眺め回した後、


「猫か・・・まぁいいんじゃねぇか?俺は構わないぜ。」


大して興味もないらしい。別段悩むでもなく、ちらりと傍にいた由美さんに視線を向ける。


「あら、可愛い子猫じゃない。」


由美さんも飼うことには反対していないらしい。


「でしょっ?宗っていう名前なの!!!」


「それはまた。ややこしい名前にしたもんだな。」


床に下ろされた宗はさっきまでとは打って変わって


時折にゃあにゃあと鳴きながらちょろちょろと部屋の中を動き回る。


「まあ、坊やに似てなくもないわね。ほら、目とか雰囲気とか。」


「・・・猫と似てるって言われてもなぁ・・・?」


首を傾げながら足元に寄ってきた宗の頭をしゃがんで撫でた。


































でも由美さん曰く僕に似ているという猫の宗は案外活発な性格だったらしく、


その後はもう大変というか酷いと言うか


兎に角、振り回された。






























「こらっ!!!!!宗!!!!!!」


「はいぃ!?」



突然背後から由美さんの怒号が飛んできて、廊下を歩んでいた足を止めた。


恐々後ろを振り返る。


「あの、僕何かしましたか・・・?」


「あ、ごめん。坊やじゃないのよ、あっちの宗。」





























「宗ちゃん!!待ちなさい!!!!!」


「へっ?」



今度は鎌足さんが追っかけてきた。


「僕何かしましたか・・・?」


「あ、ごめん。宗ちゃんじゃなくて宗の方。」




・・・いや、結局どっちなんですか。


もう何だかだんだん訳が分からなくなってきた・・・。















































「ぎぃゃやああああああああああああああ!!!!!」



「ちょっ、何事ですか!?」



見ると方冶さんが奇声を上げて柱にへばり付いていた。


その顔は蒼白で、よくよく見るとジンマシンがそこらじゅうに出来ている。


そして、足元には猫の宗がにゃあにゃあ鳴きながら体をすり寄せていた。


「なななななんでこんなところにねねね猫がいるんだあぁぁぁぁああ!!!!」


「あ、今日が拾ってきたんですよ。そういや方冶さんには言ってませんでしたねv」


「はっ早くこいつを如何にかしてくれ!!!!!」


「えー?だって方治さんに懐いてますよ?」


「知らん!!!宗次郎、頼むから早く遠ざけてくれ!!!!!」


あまりにも方治さんが必死な顔をしてたので(というかジンマシンが酷くなってきた)、


仕方なく宗を方治さんからひっぺはがすことにした。


折角面白いのになぁ。


「これで大丈夫ですか?」


方治さんから離されて宗は前足をバタバタさせている。


「・・・何故残念そうな顔をしているんだ。」


「あはは、バレました?」


しかし、笑い事ではないッ!!!と一喝されて、


僕は暫くそのあれるぎーについて長々とお説教を喰らう羽目になった。
















































「にゃあ〜」


こんな所にいた。


僕がお説教を受けてる間にふらっと居なくなったと思ったら。


もう、人の気も知らないで。(知ってたらそれはそれで怖いけど。)


ああもう今日は散々だったなぁ・・・と思いながらその元凶である宗の頭を撫でる。


由美さんや鎌足さんには怒鳴られるし方治さんはあれるぎーだし。


考えてみれば元はのせいだ。


「お前のご主人は何でこんなにややこしい名前を付けたのかなあ?」


そう呟いてふと顔を上げると、目の前にはその人物の部屋の扉があった。


宗は多分ずっとここに居たのだろう。


こうなったら文句の一つでも言おうかな、と思い立ち半開きの扉から中に入った。
















「・・・あれ?」


予想外の出来事に、きょとんと目を丸くした。


部屋に入ると、が机に突っ伏して熟睡していたからだ。


さっきまで宗と遊んでいたのだろう。脇には手毬やら猫の遊び道具やらが散らかっている。


ー。起きてくださいよー。」


と言いながら近くにあった猫じゃらしを掴んで頬をくすぐってみる。


「んー・・・。・・・。」


少し呻いたがそれでも全く起きる気配はない。また夢の世界に戻ってしまった。


宗が耳元で煩く鳴いててもお構いなしに規則正しい寝息を立てている。


すとんと傍に腰を降ろすとすぐ近くにの顔があった。


「やっぱりには敵わないなぁ・・・。」


くすっと笑って幸せそうな寝顔を見ていると、さっきまでの不満はみるみる溶けていく。


我ながら甘いと思うのだけど。この感情はどうしようもないのだろう。


そっと、手を伸ばしてのさらさらした髪の毛を撫でた。


起こす気なんて、もう微塵も無い。


心地よい感触に目を瞑る。


この時間がずっと、続けばいい。終わらなければいい。





































「ん・・・。」


僕の願いとは裏腹に、の瞼が微かに震えた。


「・・・宗・・・。」


小さすぎる声だけど、その唇は確かに「宗」と言った。


でも目は閉じたまま。ただの寝言みたいだ。


どんな夢を見ているのだろう。


そういえば何時だったか鎌足さんが、


寝言を言っている人と話すと死ぬとかって言ってたなぁ。








































「・・・大好き・・・。」



























もし死のうが死なないがやっぱり関係ないや。


僕はに聞かなきゃならないことが出来たから。







全く、本当に貴女はややこしい名前を付けたものだ。






























ねえ



「どっちの『宗』なんですか?」






































もし、その『宗』が自分じゃなかったとしても








































全部、ややこしい名前を付けた貴女がいけないんですからね。









































「僕も、大好きですよ・・・。」







































夢の中のにそっと、優しく口付けた。

































   了






わわわっ(汗)

初めてフツーに恋愛っぽいの書きました!

書いてるこっちが照れます///

いっつも暗ーい話ばっか書いてるからかなぁ(笑)

うーん、でもいまいち宗次郎の人格が見えてこない・・・。

今回の目標(明るい話)はとりあえず達成できた・・・?と思います。

       


                                 2007.9.28