―ずっと、永遠、不変

こんな言葉は人間の浅はかな望みでしかない















なのに私は













一体何度願ったのだろうか























               限り無く優しい嘘







































急に顔が見たくなった。

何処からか湧いてくる凍るような感情に

どうしようもなく不安で、仕方が無かった。

ただ、貴女が


目の前に確かに居る事を


確かに自分の傍に居る事を


確かめたかった。























































さん。・・・って寝てます?」



柔らかな光が照らす縁側で、うつらうつらしている彼女を見つけた。

サイゾーと何だかよく分からない分厚い本を膝に乗せているあたり

大方日向ぼっこをしながら本を読もうと思ってそのまま寝てしまったのだろう。

確かに今日は見事に晴れていて、風も無く正に絶好の天気である。

夢の中のの横に腰を下ろすと、ふわっと全身に日光が当たった。

じんわりあたたかい日差しにこちらも眠くなってしまう。

それは駄目だと目を擦って己を叱り、最初の目的を思い出した。


さん。」


もう一度、ぽんぽんと肩を出来るだけ優しく叩いた。

彼女の肩は華奢で、思わず今にも折れそうだなんて思ってしまった。

すると瞼が振るえ、閉じていた瞳が徐々に開く。


「ん・・・?」

「お早うございます、さん。」

「・・・・・・え!?沖田さん!?」



先程までとろんとしていた瞳が大きく見開かれた。

しかし未だその状況が呑み込めていないらしく、動転した様子で何やら

一言二言口走ったかと思うと、すぐに頬を真っ赤に染めた。



「わ、私もしかして寝てました!?」

「ええ、それはもうぐっすり。」



彼女のあまりの驚きようが可笑しくて、つい笑みが零れる。

顔を覆った指の隙間から、赤みが差した頬が覗いた。



「・・・恥ずかしいです///」

「こんな薄着で寝てたら風邪引きますよ。」



いくら日差しが暖かくとも今は冬真っ盛りである。

ただでさえ体の弱い彼女が羽織もなしで外に長時間居れば、

どうなるかはなんて目に見えること。



「これでも羽織っててください。」



自分がさっきまで肩に掛けていた紺の羽織をに被せる。



「え、でも、それじゃあ沖田さんが・・・。」

「大丈夫ですよ、私は。この通り至って元気ですから、ね。」



それでも見上げるの大きな瞳からは、心配の色が一向に消えなかった。

むしろ段々と幼子を叱る様な、少し厳しい目をして見せた。



「嘘ついたって無駄ですよ、沖田さん。」



きょとんとする私に、さらにその目つきは鋭くなる。



「この前咳してましたね。風邪気味なんでしょう?」

「あ、あれはお茶が咽ただけですよ。」

「嘘。知ってるんですよ、ちゃんと。前々から咳してることだって。」



苦しい言い訳を即座に否定され、返す言葉がない。

何故、気付かなくてもいいことに気付いてしまうのだろう。



「こんな風邪、すぐ治りますよ。だから大丈夫です。」

「・・・どうして沖田さんは、いつも『大丈夫だ』って言うんですか。」



小さく呟くように零した言葉。

行儀良く膝に置かれた白い手が、着物をぎゅっと握っていた。

寂しくなった木をすり抜ける、一陣の風。

俯いた顔から垣間、滅多に見せない表情が見えた。

















            ◇

















「・・・何で、そんなに我慢するんですかっ・・・。」














            ◇




















・・・貴方は人一倍優しいからいつも笑っていて

同じように人一倍苦労しているのだろう。

決して自分だけの物ではない重荷を、他の誰かの為に背負おうとする。

万物を跳ね返すような笑顔で、自分を殺して。

そのほぼ無意識下での行為は、確実に彼自身に影響を及ぼしているというのに。

しかしその笑顔にたくさんの人が救われたのも事実。


・・・私自身もそんな彼の人柄に惹かれているのだろう。








でも私は、それは沖田総司という人間の長所であり、短所だと思う。








―何故



誰かの為に身を削る彼が、無理をして笑うのは

胸が潰れそうに、酷く痛かった。















嫌、だったのかもしれない。















誰だったか、彼を雪のようだと言った。

白く、白く、儚い雪だと。














華麗に舞う雪は

瞬く間に手のひらに消えて。














明るすぎる笑顔は、いつしか

光にとけてしまいそうで。




























そんな事、起こり得るはずは無いと思っていながらも

彼が、目の前から居なくなってしまうかもしれない。

いつか、消えてしまうかも―

胸をざわめく漠然とした不安。

そんなことを想像する自分は愚かだと、その度に自己嫌悪に陥った。














―嫌、だっだのだ。













そんなことを連想させる彼の優しささえも。





























「・・・貴方のことを心配している人だって沢山居るんですっ・・・」












そんな彼に振り絞るように言えたのは、たったそれだけ。

もっと伝えたい事も沢山、あったのに。

でもこれは我侭。彼を縛る沢山の枷の一つでしかないけど。
















「だからっ・・・!」


















その先は、涙に流されて言葉にならなかった。


痛い。


例えるなら、傷口に零れる雫が染みるように。

流れれば流れるほど、痛みは増していく。




隣に座っている沖田さんは、黙ったままだった。

ああ、やっぱり―









「!」





視界が真っ暗になったかと思うと、身動きが取れなくなった。

思っていたより力強い、腕。

すぐ近くににあるのは、あの人の顔。



「お・・・沖田さん!?」

「・・・大丈夫ですよ。」

















               ◇















「・・・何処にも行きません。ちゃんと此処に居ますから、ね?」


















               ◇

















そう言うと、彼女は目を大きく見開いて。

それから涙で濡れた目を拭って、花が綻ぶように、笑った。

その笑顔がどうしようもなく愛しいと思った自分は

・・・なんて罪深いんだろう。




すると不意に、廊下の端から見慣れた黒い人影が現れた。

吃驚して、思わずさんからぱっと体を離す。


「おう、総司。近藤さん知らねぇか?」


「!!ひ、土方さん!!」


素っ頓狂な声を上げるさんをよそに、頼みもしない大きな溜め息が漏れる。


―土方さん・・・貴方って人は・・・。


そんな雰囲気を感じ取ったのか、土方さんはバツが悪そうな顔をして

すまん、と小さく呟いた。



「・・・邪魔が入りましたね。」

「・・・何か言ったか総司。」

「いいえ?空耳でしょう。」



思わず漏れた言葉に訝しげにこちらを見る土方さんを適当にあしらった。

勿論、嘘っぽい笑顔付きで。


「近藤さんなら今日は居ませんよ。」

「そ、そうですね。もうすぐお帰りになられるのでは・・・

・・・あっ!!え!?もうこんな時間ですか!?」


いつの間にか、頭上にあった太陽が赤い光を放っていた。


「すみません、私そろそろお夕飯の支度がありますので・・・。」


慌てて立ち上がり、とぺこりとお辞儀をすると

さんは急いで廊下を駆けていく。

その後姿を見送ると、突っ立ったままだった土方さんに向き直った。


「じゃあ、私も失礼しますね。」


それだけを告げて、ゆっくりと板張りの廊下を歩き出した。


















               ◇















若干老朽化が進んでいるであろう床は、きしきしと歩く度に悲鳴を上げる。

気が付くと、無意識に自分の口に指を当てていた。




―何処にも、行きませんから




つい先程その口が発した言葉が響く。

あの時、彼女の涙を見た途端、何かが胸の内から込み上げてきて。

殆ど衝動だったと言っても良いほど、理性も思考も吹っ飛んでいた。

空になった頭に残ったのは一つ、




―ただ、笑って欲しかった。

それだけで




「あんな台詞を言うなんて、重症だなぁ・・・。」




誰にでもなく、呟く。

それほどまでに、私は、貴女を―・・・





































「・・・ッ・・・コホッ・・・」



































徐に抑えた手のひらを見つめた。


ふっ、と独りでに笑みが零れる。

それは自分は何て愚かだと嘲るだけの、哀しい微笑み。


私には、その誓いを守ることは出来ないのに。


この世に変わらないモノなんて存在しない。

万物は誕生し、そしていつかは必ず消滅する。

もしかしたらその掟だけが唯一の、"永遠"なのかもしれない。
















―移り変わることが、決して変わらないモノ
















そうして世界は、矛盾し廻っている。

"永遠"なんて言葉は、所詮人の儚い夢でしかないのだ。
























それでも私は。













貴女に儚い夢を見続けることにしよう。













































―ずっと、此処に、傍に居ますから


















































いつか、二人を引き裂く、その日まで。













































      了










1100キリ番リクエスト、mituさんよりピスメ総司小説です。
書く人間がこれなので、色々とお許し下さいm(__)m
冒頭の部分は、二人の想いということにしてみました。
タイトルは・・・直感です(オイ
やたらと長い。改行多いですね・・・。
初めてのリクということで迷った挙句、「甘々でも悲恋でもない」を目指すことにいたしました。
その結果がこれですorz

mituさんのみお持ち帰り可能です。(直リンOKです)
・・・すみません!!!!本当にいつでも返品受け付けておりますので!!!